『おもてなし経済の時代』 ~ 働き場(Ba)革新!
◆本体価格:2,200円+税 ◆発行:株式会社白揚社 2015年10月
◆坪田知己・NEOおもてなしのオフィス研究会 著
目次
- 働き場革新――「おもてなし経済」の時代とオフィス
- 「おもてなし経済」がやってくる
- 「機械文明の奴隷」だった時代
- 自動車の王者交代が示したこと
- 画一化から多様化へ――顧客満足を競う時代へ
- サービス文明が到来する理由
- 企業の未来像
- 働き方、教育、メディアも変わる
- 信頼のネットワークをつくる
- 働き方とオフィスが変わる
- 「おもてなしの心」は次代の経営成功の鍵
- おもてなしの心を取り戻そう“ニッポンの会社”
- 「内なる要求」のオフィスづくり
- 競争力を高める「マインドフルネス」と
「オープンイノベーション」の場づくり - 働く人の生産性を向上させる「おもてなし」
- オフィスにおけるサービスデザインが重要になる
- 個人と企業と社会の共進化を支える、7つのおもてなし
- オーストラリア、香港、日本に見る、
企業内のおもてなし - 総務部門による社員への「おもてなし戦略」の事例
――インテル - イトーキ「SYNQA(シンカ)」に込めた「おもてなし」
- 「おもてなしオフィス」を支えるオフィスビルの取り組み
- エンターテイナーのおもてなし10か条
- あとがき
- 著者一覧
本書の出版主旨
本田広昭(株式会社オフィスビルディング研究所)
「おもてなし」とは、お客様に対応する扱い、待遇であり、「表裏なしの心」ともいわれています。目に見える「モノ」と見えない「コト」があり、茶道の一期一会に通じています。 私たちは、今の世の中は、もうけ主義に走っておもてなしの心を見失っているのではないかという問題意識から、京都工芸繊維大学の新世代ワークプレイス研究センター(NEO産学連携研究)で「おもてなしのオフィス研究会」を立ち上げて、企業のおもてなしをテーマに研究を進め、その結果を『働き場(Ba)革新!』という本にまとめました。
2部構成になっていまして、第 1部は「おもてなし経済がやってくる」というテーマです。執筆の坪田知己さん(著書に「2030年メディアのかたち」「人生は自燃力!」「ふるさと再生」など多数・元日本経済新聞記者)は、今はもう大量生産の時代ではなく、個別対応の時代だと言っています。
おもてなしには、お客様に対するものと社員に対するものがあります。お客様に対するおもてなしは、会社に対するファン心理を芽生えさせ、結果的に企業イメージの向上につながりますし、そこでお客様からもたらされる情報は益々貴重な時代になります。今はこの当たり前の関係がうまくつくれていません。
注目したいのは、会社経営者から社員に対するおもてなしです。社員という役者を上手に舞台で踊らせられれば、社員のモチベーションの向上、知的生産性や価値の創出をもたらし、会社の経営に寄与します。おもてなしというのは、個人のお付き合いと一緒で、相手に喜んでもらい、好意を持ってもらう行為です。これが循環することで、心地よい仕事の遂行と幸福感が得られますが、これがなかなか実現されていません。
今までのオフィスは事務所的なものでしたが、複雑な時代の中で、これからオフィスは社内外を巻き込んで、人が集まり、知恵を出し合い、物事を解決していく知識創造の場になっていきます。この本ではその中で求められる経営者と社員の関係を説いたつもりです。
時間に縛られて働いていた近代工業社会の概念をそろそろこれを変えていかなければなりません。また、多様性を尊重し、大衆から個人へサービスが提供される時代ですから、今までの市場原理からの脱却も必要です。「おもてなし経済」とは、「利己主義」という利益優先の悪夢から脱却した「利他主義の経済社会」です。仕事も、これからは仕えて働いていた「仕事」から自らの意志で働く「志事」の時代になります。これからは、経営者がより社員にして「おもてなしの心」を強くもつことが必要な背景です。
エッセイストの寺岡克哉さん(著書「生命の肯定」)は、おもてなしの原点ともいえる利他の心について、「利他の心が起こるのは、一つは他人に親切にすると自分も気持ちがよくなり、他人に意地悪をすると自分も意地悪な気持ちになるからです。もう一つは『情けは人のためならず』、親切の連鎖がやがて自分にも返ってくるからだといわれていますが、報いが全く返らなかったとしても、利他の行為は自分の生命に意義を与え、それを永遠のものにしてくれます」と書かれています。
第2部のテーマは「働き方とオフィスが変わる」で、私を含めた研究会メンバー12名が分担して執筆しています。その中の1章で、経営コンサルタントの松岡利昌さんは、おもてなしの心は次代の経営成功の鍵だと言っています。企業経営者は、様々な訪問先で特別な待遇を受けるので、おもてなしが何かよく分かっていますが、それを従業員に下ろしていません。それは、社員が辞めないからです。しかし、これから人材が流動化するようになると優秀な社員がライバル会社に転職してしまうということも起こり得ます。経営者は、おもてなしの心で「企業利益の源泉」である社員の心を鷲づかみにしなければならない時代なのです。
「おもてなしの心を取り戻そう“ニッポンの会社”」の2章は私が執筆しました。企業は受付できちんとおもてなしをしようと提案しています。また、「おもてなしオフィスを支えるオフィスビルの取り組み」の11章では、飯野ビル(内幸町)の建設プロジェクトを担当された大島一祐さんの取り組みはビル関係者必読ものです。このようにいろいろな分野の方々が執筆していますので、それぞれにとても面白い本になっています。
研究報告はリポートを出して終わりになりがちですが、私たちは問題意識を持って研究したものは、活字にして世に訴えていくべきだと考えてこの本を出版しました。あるべき姿を提示し、少しずつ輪を広げていくことを目指しています。この本が、日本のお家芸でもあるおもてなしの心への応援歌になれば幸いです。
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